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法エールVol.212

健軍事務所 中村 享子

2026年9月20日

自分に合った遺言書を選ぶために~3つの方式の特徴と注意点~ / 判例紹介:刑罰法規の不明確性と広汎性(最高裁判所大法廷昭和60年10月23日判決) / コラム~「愛の言葉」~


法エールVol.212


ご挨拶


9月を迎えましたが、今年の熊本は、改めて自然災害の恐ろしさと、日頃から備えることの大切さを痛感する夏となりました。


7月28日に発生した「令和8年熊本地震」では、県内各地で大きな被害が生じました。熊本県が9月1日に公表した資料によると、人的被害は403名、そのうち亡くなられた方は38名に上っています。


また、住家被害は6万1,133棟に及び、全壊1,704棟、大規模半壊321棟、半壊2,650棟が確認されています。さらに、発生から1か月以上が経過した現在も、38か所の避難所が開設され、2,023名の方が避難生活を続けておられます。数字の一つひとつの向こうに、それぞれの暮らしやご家族があることを忘れてはなりません。


平成28年の熊本地震から10年。熊本は復興への歩みを重ねてきましたが、災害はいつ、どこで起こるか分かりません。今回の地震を機に、ご自宅の耐震性や避難場所、非常用品、そして大切な財産や権利関係についても、改めて確認していただければと思います。


当法人では、相続・遺言・不動産登記をはじめ、暮らしの中の法律問題について無料相談を開催しております。「誰に相談すればよいか分からない」ということでも構いません。少しでも不安やお困りごとがございましたら、どうぞお気軽にご相談ください。


被災された皆様が一日も早く穏やかな日常を取り戻されることを、心よりお祈り申し上げます。


それでは、今月の法エールもよろしくお願い致します。


(代表社員 井上 勉)



自分に合った遺言書を選ぶために

~3つの方式の特徴と注意点~


これまで2回にわたり、新たに創設される保管証書遺言についてご紹介しました。


遺言書には、それぞれ異なる特徴があります。今回は、「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「保管証書遺言」のそれぞれの違いをご説明致します。


遺言書作成の際に、ご参考にして頂ければと思います。


費用を抑えて自分で作る「自筆証書遺言」


現在の自筆証書遺言は、財産目録を除く本文、日付、氏名を遺言者が自書し、署名・押印する方式です。しかし、今後、2026年6月24日公布の民法等の一部を改正する法律施行後には、押印義務の要件はなくなります。


自分で作成できるため、公証人の手数料は必要ありません。思い立ったときに作成しやすいことがメリットです。


一方で、方式に不備があれば無効になるおそれがあります。また、自筆証書遺言の存在を明らかにせずに自宅で保管した場合には、紛失や未発見、隠匿などの心配があります。


現在は、作成した自筆証書遺言を法務局に預ける「自筆証書遺言書保管制度」も利用できます。法務局で保管すれば、紛失等のリスクを軽減でき、相続開始後の家庭裁判所による検認も不要です。


確実性を重視する「公正証書遺言」


公正証書遺言は、遺言者から聞き取った内容をもとに、公証人が作成する遺言書です。


法律の専門家である公証人が関与するため、方式の不備で無効になる危険が低く、原本も公証役場で保管されます。


遺言者が自分で全文を書く必要はなく、原則として公証人が内容を読み聞かせ、遺言者が確認します。そのため、長い文章を自分で読み上げることが難しい方にとっては、保管証書遺言より負担が少ない場合があります。


一方で、公証人の手数料や証人2人の準備が必要となります。なお、公正証書の手続は令和7年10月からデジタル化され、公証人が相当と認める場合には、ウェブ会議を利用できる仕組みも始まっています。


手書きの負担を軽くする「保管証書遺言」


保管証書遺言は、電子データで作成し、電子署名を行ったうえで、法務局による本人確認と保管を受ける方式で、原則として、遺言の全文を口述する必要があります。


保管証書遺言は、手書きが不要で、修正しやすく、法務局で安全に保管されることが特徴です。家庭裁判所による検認も必要ありません。


一方で、電子署名やウェブ会議など、デジタル機器の操作に一定の準備が必要です。


そのため、次のような方には利用しやすいと考えられます。


・パソコン等で文章を作成できる方

・電子署名の手続に対応できる方

・遺言の全文を自分で読み上げられる方


逆に、人前で長文を読むことに大きな不安がある方や、認知機能、発声、機器操作などに心配がある方は、公正証書遺言も含めてご自身にあった遺言書の方式を検討した方がよい場合があります。


民間の「デジタル遺言サービス」とは別のものです


注意したいのは、今回創設される保管証書遺言と、民間企業などが提供する「デジタル遺言サービス」とは異なるということです。


スマートフォンのアプリ、メール、動画、音声、LINEなどに希望を残しただけでは、原則として法律上有効な遺言書にはなりません。


こうしたサービスは、家族へのメッセージや財産情報を整理する「デジタル版のエンディングノート」として活用できますが、それ自体が相続方法を法的に指定する遺言書になるとは限りません。


まとめ


どの方式で遺言書を作成するかは、年齢や健康状態だけでなく、家族関係、財産の種類、遺言内容の複雑さ、デジタル機器への慣れなどによって異なります。


ご自身の思いを確実に実現し、残されたご家族の負担を減らすためにも、元気なうちから遺言について考え、内容や方式に迷う場合には、早めに司法書士などの専門家へご相談ください。



判例紹介


刑罰法規の不明確性と広汎性

最高裁判所大法廷昭和60年10月23日判決


【事案の概要】


被告人は、中学卒業直後の16歳の少女Aをドライブに誘い、車内で性交したほか、その後も少なくとも15回以上性交を重ねていた。両者の間では専ら性交を目的として会っており、結婚の話などもなかった。


裁判所は、被告人がAを単なる自己の性欲の対象として扱っていたとして、福岡県青少年保護育成条例10条1項の「青少年に対する淫行」に当たると認定し、罰金5万円を科した。被告人は憲法11条、13条、19条、21条、31条違反を主張して上告した。


判決要旨〔最高裁判所刑事判例集〕


上告棄却。


1.18歳未満の青少年に対する「淫行」を禁止処罰する本条例10条1項、16条1項の規定は、憲法31条に違反しない。


2.本条例10条1項の規定にいう「淫行」とは、青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似行為をいうものと解すべきである。(1、2につき補足意見及び反対意見がある。)


コメント


本件判決(福岡県青少年保護育成条例事件)は、条例の罰則における「淫行」の文言について、その処罰範囲が広範であることが問題となった事案です。最高裁は、「淫行」を無限定に捉えるのではなく、欺罔、威迫等による場合や、青少年を対価を得て不特定の相手方と性交するような場合などに限定して解釈し、そのような限定解釈を採れば憲法31条に違反しないとしたものです。そして、最高裁は、別の判決において、刑罰法規が不明確で憲法31条に違反するかどうかを、通常の判断能力を有する一般人の理解において、具体的な場合に当該行為が処罰規定の適用を受けるかどうかを判断できる基準が読み取れるかによって判断する立場を示しています(徳島市公安条例事件判決、最大判昭和50年9月10日)。本件判決においては、「淫行」を限定的に解釈することが通常の判断能力を有する一般人の理解にも適うとして、明確性の点から憲法31条違反ではないとされたものです。


こうした中、国旗を大切に思う国民感情を保護する趣旨で制定された国旗損壊等罪(以下、「本罪」という)が、令和8年8月31日に施行されました。本罪は、第一条で、「国旗」とは、国旗及び国歌に関する法律(平成十一年法律第百二十七号)に定める国旗として用いられていると社会通念上認められる有体物をいう、第二条で、人に著しく不快又は嫌悪の情を催させるような方法により、公然と国旗を損壊し、除去し、又は汚損した者は、二年以下の拘禁刑又は二十万円以下の罰金に処すると定めています。


もっとも、本罪を、適正手続きの保障を規定する憲法31条の内容をなす罪刑法定主義の保障や刑罰法規の明確性の原則及び適正処罰の原則の観点から判断すると、本件青少年保護育成条例の「淫行」処罰規定は、適正処罰の原則と明確性の原則に反しないかと同様の問題が生じます。


すなわち、「国旗とは、国旗として用いられていると社会通念上認められる有体物をいう」や「人に著しく不快又は嫌悪の情を催させるような方法による損壊等」との文理から、通常の判断能力を有する一般人の解釈と理解に適い、具体的な場合に自分の行為をその適用を受けるかどうかの判断可能となる基準を読み取ることは困難ではないかと思われます。従って、今後の本罪適用の動向を注視していく必要がありそうです。



コラム「愛の言葉」


令和8年6月20日、歌手で俳優の美輪明宏さんがお亡くなりになられました。私は、これまで美輪さんがテレビ等で発言される言葉や雰囲気に魅了されてきました。また、ご自身が戦争体験者として平和への思いも伝えてこられました。特に印象に残っているのは、紅白歌合戦でも披露された「ヨイトマケの唄」。私としては、美輪さんの舞台を鑑賞できなかったことが残念です。


美輪さんの最期となった言葉「こんな世の中を生き抜く武器は愛の言葉しかありません。この世のすべての問題を解く鍵は愛です 愛があれば戦争なんか起こりません。」


美輪さんらしい素敵な言葉です。美輪さんは、世界中が平和で、一人一人が相手を敬い助け合う、愛の言葉が溢れる世の中を願っているのではないでしょうか。しかし、現実は戦争が起きていて、また身近なところでも平気で人を凶器や言葉や態度で傷つけることも多々起きています。「愛の言葉」が無いだけなのか、「愛」自体がないのかわかりません。


美輪さんの言葉のような世の中になれるよう肝に銘じて、「愛の言葉」「愛」そのものを武器にしていきたいです。


(健軍事務所 中村 享子)



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