
清水事務所 小山 愼一郎
2026年8月20日
デジタル遺言はどうやって作る?~作成から法務局での保管まで~ / 判例紹介:精神科病院の任意入院患者が自殺した場合、病院に「無断離院防止策」の説明義務はあるか / 司法書士日記
法エールVol.211
ご挨拶
このたびの「令和8年熊本地震」により被災された皆様に、心よりお見舞い申し上げます。今も余震への不安や、生活再建への心配を抱えながら過ごされている方も多いことと存じます。
大きな揺れに襲われた瞬間、十年前の「平成28年熊本地震」の記憶がよみがえった方も少なくないのではないでしょうか。あの日、私たちは、当たり前の日常が一瞬にして失われる不安と、家族や地域で支え合うことの大切さを身をもって経験しました。
復旧・復興への道のりは、建物や道路を直すことだけではありません。住まいや財産、相続、登記、成年後見、債務、契約書類の紛失など、被災をきっかけとして様々な法的問題が生じることがあります。また、役所や法務局への手続について、何から手を付ければよいのか分からず、不安を抱えておられる方もいらっしゃると思います。
私たち司法書士は、地域に根差す法律家として、一人ひとりの声に丁寧に耳を傾け、暮らしと大切な権利を守るためのお手伝いをしてまいります。十年前の経験と教訓を忘れず、今回も必要とされる方へ、必要な支援を着実に届けたいと考えています。小さな疑問やお困り事でも、どうぞ遠慮なくご相談ください。
一日も早く穏やかな日常が戻りますことを、心よりお祈り申し上げます。
それでは、今月の法エールもよろしくお願い致します。
代表社員 井上 勉
デジタル遺言はどうやって作る?
~作成から法務局での保管まで~
前回は、新たに創設される「保管証書遺言」の概要をご紹介しました。
今回は、実際にどのような流れで遺言書を作り、法務局に保管してもらうのかを見ていきます。
なお、制度の具体的な申請画面や手数料、必要書類の細部は、今後定められる予定です。ここでは、基本的な手続の流れをご説明します。
STEP1 遺言の内容を整理する
最初に行うのは、「誰に、何を引き継いでもらうか」を整理することです。
例えば、次のような事項を確認します。
・「誰に」 財産を渡したい相手
・「何を」 自宅や土地などの不動産、預貯金や有価証券
また、遺言執行者(遺言書の内容を実現するための各種手続きを行う者)として、誰を指定するか確認しておくことも大切です。
STEP2 パソコンなどで遺言書を作成する
保管証書遺言では、遺言書を電子データとして作成できます。
自筆証書遺言のように、本文をすべて自分の手で書く必要はありません。文章を入力し、確認しながら修正できるため、書き間違いによって何枚も書き直す負担が軽くなります。
ただし、自由な形式で作ればよいとは限りません。データの形式や提出方法などは、今後定められるルールに従う必要があります。
STEP3 電子署名を行う
作成したデータには、遺言者本人が電子署名を行います。
電子署名は、紙の書類における署名や押印に代わり、「このデータを本人が作成した」ことを電子的に確認するためのものです。
実際の手続では、マイナンバーカードを利用した公的個人認証などが想定されています。そのため、電子署名を利用するための暗証番号や、対応する機器等が必要になる可能性があります。
STEP4 法務局へ保管を申請する
電子署名を行った後、法務局に保管を申請します。
本人確認等の手続は、法務局へ出向いて行う方法のほか、申請人から申出があり、遺言書保管官が相当と認める場合には、ウェブ会議を利用する方法も設けられます。したがって、すべてのケースで必ず自宅から手続が完結するとは限りません。通信環境や本人確認の状況、周囲の状況などによっては、法務局への出頭を求められる可能性があります。
ウェブ会議を利用する場合には、画面を通してマイナンバーカード等の本人確認資料を提示し、保管官による確認を受けることになります。
STEP5 遺言の全文を口述する
保管証書遺言の手続で、特に重要なのが「全文の口述」です。
遺言者は、遺言書保管官の前で、作成した遺言書の全文を読み上げます。ウェブ会議を利用する場合には、画面越しに読み上げることになります。
これは、電子署名をした人と申請している人が同一人物であることだけでなく、遺言者が内容を理解し、自分の意思で作成したことを確認するための手続です。家族が代わりに読んだり、画面外から答えを教えたりすることはできません。周囲から不当な働きかけを受けている疑いがある場合には、ウェブ会議による手続を中止し、法務局への出頭を求められることも想定されています。
病気や障害によって発声が難しい方については、通訳人による通訳や、保管官の面前で自書する方法など、口述に代わる手段も設けられます。
STEP6 法務局で保管される
本人確認や全文口述などの手続が完了すると、遺言書は法務局で保管されます。法務局で保管されるため、家庭裁判所による検認は不要です。紛失や改ざんの心配も抑えられます。
遺言者が亡くなった後は、相続人等が遺言書の証明書を取得できるほか、一定の条件を満たした場合には、法務局から関係者に遺言書を保管している旨が通知されます。
次回は、自筆証書遺言、公正証書遺言、保管証書遺言の違いを比較し、どの方法が自分に適しているかを考えます。
判例紹介
精神科病院の任意入院患者が自殺した場合、病院に「無断離院防止策」の説明義務はあるか
(最高裁判所第二小法廷 令和5年1月27日判決)
【事案の概要】
患者Aは統合失調症の治療のため精神科病院(Y)に任意入院した。入院中、病院敷地内への単独外出は許可されていたが、敷地外への単独外出は許可されていなかった。病棟の出入口は常時施錠され、外出時には看護師に申し出て解錠してもらう運用であった。一方、病院敷地の門扉は平日日中に開放され、付近に守衛・警備員はおらず、監視カメラ等も設置されていなかった。病院はAに徘徊センサー等を装着する対策も講じられていなかった。
Aは病棟から外出し、そのまま病院敷地外に出た後、近隣建物から飛び降りて死亡した。患者の相続人Xは、Yには「無断離院の防止策が十分に講じられていないこと」を説明すべき義務があったとして、損害賠償を求めた。
原審は、統合失調症の患者は一般に無断離院をして自殺する危険性が高いことなどを前提に、病院における無断離院防止策の有無・内容は診療契約上の重大な関心事になると判断した。その上で、Yが他院の無断離院防止策と比較したうえで入院先を選択する機会を保障するため、Yにおいては、門扉の監視や徘徊センサー等の対策を講じていないことを説明すべき義務があったとして、Yの説明義務違反を認めた。
そこでYが上告した。
【裁判所の判断】(破棄自判 Xの請求を棄却)
任意入院は、原則として開放的な環境で処遇されるものであり、開放処遇の制限は、患者の症状からみて、その開放処遇を制限しなければ医療又は保護を図ることが著しく困難であると医師が判断する場合にのみ行われるものである。Yにおいては、医師が患者の病状を把握した上で単独の院内外出を許可するかを判断し、これにより無断離院による自殺の防止が図られていた。また、当時の医療水準として、任意入院患者全般について門扉監視や徘徊センサー装着などの対策を講ずる必要があるとされていたわけではない。さらに、Aについて、具体的にどのような無断離院防止策が講じられているかによって入院先を選択するほど高い関心を有し、その意向を医師に伝えていた事情もうかがわれない。
したがって、Yの医師が、他院との比較を踏まえて無断離院防止策を説明しなかったとしても、説明義務違反があったとはいえない。
【コメント】
医師の患者に対する説明義務の範囲は、患者の自己決定権との関係で問題となりますが、あらゆる事項を一律に説明すべきものではなく、個別具体的な事情に応じて判断されます。精神科の任意入院では、患者の自由を尊重した開放処遇が原則であり、危険防止のための制限措置は、症状や医療上の必要性を踏まえた医師の判断に委ねられます。病院選択に関する説明であっても、患者側がその事項について高い関心を有していることや、その意向を医療側に示していたことなどが、説明義務を判断する重要な事情になります。
なお、本判決は、病院の安全対策について「説明しなくてよい」と一般化したものではありません。患者の病状、具体的な危険性、当時の医療水準、患者・家族が特に重視している事項などを踏まえ、説明すべき内容を個別に検討する必要があります。一方で、患者側としても、入院するにあたり、どのような点を重視しているのかを積極的に病院側に伝えていく姿勢が必要です。
司法書士日記
ある日、当事務所に高齢の女性が来所され「自分の子供から、手術が必要になったので、手術費と入院費を貸してほしいと言われました。どうしたらよろしいですか。」と相談がありました。
「あなたの子どもは男性ですか?おいくつですか?職業は?家庭はないのですか?妻帯者ですか?」等を尋ねます。
相談者から「子どもは男性です。50歳です。自営業で妻帯者です。」との答えがありました。
「ところで、あなたの夫は存命ですか?子育ては完了しましたか?収入は年額幾らくらいですか?」と立ち入った話をします。
「夫は死亡しております。収入は年金のみです。子育ては終了しております。」との答えです。
「あなたの長男は、手術費用とその後の入院費用の合計幾ら貸してほしいと言っているのですか。」と問います。
「手術費用と入院費用の合計〇〇〇万円を貸してほしいと言っています。」
「ご自身の年齢からすると、あなたは一人暮らしですから施設への入所を考えることになりませんか。ご自身も入所する年齢に近いですよ。入所するには月に約20万円かかる可能性もあります。その準備もお考え下さい。それから結論を出されてはいかがですか。」
その後、この方が再来することは、ありませんでした。
清水事務所 司法書士 小山 愼一郎
~寄り添う支援で笑顔ふたたび~
当法人は、「NPO法人身近な犯罪被害者を支援する会」との連携を図っています。
ご質問、ご相談等ございましたら、当法人もしくは下記までご連絡ください。
TEL 096-341-8222
FAX 096-341-8333
命の絆・大切に、輝く命・永遠に
当法人は、「一般社団法人命の尊厳を考える会」との連携を図っています。
ご質問、ご相談等ございましたら、当法人もしくは下記までご連絡ください。
TEL 096-337-1251
FAX 096-337-3355
当法人では、継続的な相談にも対応できるよう、顧問契約の締結を行っています。
会社・個人問いません。詳しくはお近くの事務所までお気軽にお問い合わせください。
司法書士法人ヒューマン・サポート法律支援センター
龍田事務所
〒861-8006
熊本市北区龍田3丁目32番18号
TEL:096-327-9989 FAX:096-327-9799
清水事務所
〒861-8066
熊本市北区清水亀井町16番11号
TEL:096-346-3927 FAX:096-346-4044
薄場事務所
〒861-4131
熊本市南区薄場町46番地 薄場合同ビル内
TEL:096-320-5132 FAX:096-357-5710
健軍事務所
〒862-0910
熊本市東区健軍本町22番2号(101)
TEL:096-360-3366 FAX:096-360-3355
ホームページアドレス https://www.hshsc2003.jp/
