
健軍事務所 永井 政太
2026年7月20日
遺言書もデジタルの時代へ~新たに誕生する「保管証書遺言」とは~ / 判例紹介:電子計算機使用詐欺事件 / 司法書士日記~サッカーワールドカップに寄せて~
法エールVol.210
ご挨拶
今年もサッカーワールドカップが世界中を熱狂させています。日本代表は世界の強豪を相手に最後まで諦めることなく戦い、多くの人に勇気と感動を届けてくれました。勝敗はもちろん大切ですが、それ以上に、一人ひとりが自分の役割を果たし、仲間を信じて全力を尽くす姿勢に、多くの学びを感じた方も多いのではないでしょうか。
先月読んだある文章には、「逆境は人を鍛える試練であり、悲観は大禁物である」、「目の前の仕事に全力を尽くすことが人間を磨く」、「人を尊敬する心を持ち続けることが成長につながる」といった教えが紹介されていました。これらの言葉は、まさに日本代表の姿と重なります。劣勢の場面でも下を向かず、一つひとつのプレーに全力を注ぎ、互いを信頼し合う姿は、困難を乗り越えるために必要な心構えを私たちに示してくれました。
私たちの日常も、思いどおりにいかないことや予想外の出来事の連続です。しかし、そのような時こそ成長の機会と捉え、目の前の課題に誠実に向き合うことが、自分自身を磨き、周囲との信頼を育てることにつながるのではないでしょうか。華やかな成功は、一つひとつの地道な努力の積み重ねの先にあるということを、スポーツも人生も教えてくれます。
暑さが本格化する季節となりました。体調管理にも十分気を配りながら、一日一日の積み重ねを大切にしていければと思います。その努力が、やがて大きな成果へとつながることを信じて、今月も前向きに歩んでまいります。
それでは、今月の法エールもよろしくお願い致します。
(代表社員 井上 勉)
遺言書もデジタルの時代へ
~新たに誕生する「保管証書遺言」とは~
「遺言書」と聞くと、自分で紙に書くもの、あるいは公証人役場で作成するものを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
これまで、一般的な遺言書は、主に「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」でした。
自筆証書遺言は、費用を抑えて自分で作成できます。一方で、財産目録を除く本文を自筆しなければならず、日付や署名など法律上の要件を満たさないと、遺言書が無効になるおそれがあります。
公正証書遺言は、公証人が関与して作成するため、形式面での安心感があります。その一方で、公証人との打合せや証人の手配、手数料などが必要になります。
こうした従来の方式に加え、新たな選択肢として創設されるのが、「デジタル遺言」と呼ばれる保管証書遺言です。パソコンなどで作成した電子データを利用し、法務局で保管する新しい遺言方式です。
【なぜ新しい方式が必要?】
高齢の方や、病気などで手が動かしにくい方にとっては、全文を手書きすること自体が難しいこともあります。また、書き間違えた場合の訂正方法にも厳格な決まりがあり、せっかく作成しても方式の不備が問題となることがあります。さらに、遺言書を自宅で保管すると、紛失したり、相続人に発見されなかったりする心配があります。第三者による隠匿や改ざんが疑われ、相続人間の争いにつながる可能性も否定できません。
一方、公正証書遺言は安全性の高い方法ですが、「遠方に住んでいるため、公証人役場へ行くのが難しい」「費用がどれくらい高額になるか心配」と感じる方もいらっしゃいます。
そこで、作成の負担を軽くしながら、本人確認と安全な保管を両立させる方法として、保管証書遺言が設けられることになりました。
【パソコンなどで作成できる遺言書】
これまでの自筆証書遺言のように、本文をすべて手書きする必要はありません。パソコンやスマートフォンで入力できるため、内容を確認しながら修正しやすく、長文を書く身体的な負担も軽減されます。
作成したデータには、遺言者本人による電子署名が必要です。電子署名によって、誰が作成したデータなのか、作成後に内容が変更されていないかを確認できるようにします。
ただし、パソコンやスマートフォンで文章を作成して電子署名をすれば、それだけで遺言書として完成するわけではありません。
保管証書遺言として法律上の効力を持たせるためには、法務局で本人確認や内容の確認を受け、正式に保管されることが必要です。
【法務局で安全に保管】
正式な手続を終えた遺言書のデータは、法務局で保管されます。
自宅の引き出しや金庫に置いておく場合と異なり、紛失や改ざんの危険を抑えられます。また、相続開始後には、相続人等が遺言書の証明書の交付を請求できる仕組みが設けられます。
さらに、遺言者が亡くなった後、一定の場合には、法務局から相続人等へ「遺言書を保管している」旨を通知する制度も創設されます。遺言書を作ったものの、誰にも発見されないまま相続手続が進んでしまう事態を防ぐことが期待されています。
遺言書を法務局に保管してもらうという点で同様の制度として、令和2年7月10日に運用が開始されている自筆証書遺言書保管制度があります。
ただ、自筆証書遺言書保管制度の場合には、財産目録以外の遺言書本文を遺言者が自書する必要がある点で、保管証書遺言と自筆証書遺言保管制度は異なります。
保管証書遺言を創設する法律は成立・公布されましたが、現時点ですぐに利用できるわけではありません。
法務局のシステム整備などが必要となるため、制度の施行は、令和8年6月24日の公布日から3年以内の政令で定める日とされています。具体的な申請方法や使用するシステム、手数料などの詳細は、今後の政省令や運用ルールによって明らかになる予定です。
次回は、保管証書遺言について、作成から法務局での保管まで、具体的にどのような手続を行うのかをご紹介します。
判例紹介
電子計算機使用詐欺事件
(最高裁判所 令和7年7月11日判決)
【事案の概要】
本件は、いわゆる還付金詐欺において、現金の引出し役(いわゆる「出し子」)を務めた被告人に、指示役らとの電子計算機使用詐欺罪の共同正犯が成立するかが争われた事件である。
被告人は、インターネットを通じて知り合った指示役からの指示を受け、犯罪グループが管理する預貯金口座のキャッシュカードを預かり、ATM付近で待機していた。犯罪グループは、高齢者らに対し、保険料等の還付金を受け取るためにはATMで手続が必要であるなどと虚偽の説明をしてATMを操作させ、被害者に気付かれないままグループ管理口座へ送金させていた。被告人は、送金が完了すると電話による指示を受けて直ちに待機していたATMから現金を引き出し、報酬を受け取った上で残額を回収役へ引き渡す役割を繰り返し担っていた。
【第一審及び控訴審】
被告人は特殊詐欺グループの一員として役割を分担し、犯罪収益を速やかに回収・確保する重要な役割を果たしていたことから、電子計算機使用詐欺罪の共同正犯を認めて有罪とした。
これに対し控訴審は、被告人は被害者への電話や送金操作には関与しておらず、現金の引出しのみを担当していたことを理由に、電子計算機使用詐欺についての共謀を否定し、電子計算機使用詐欺罪について無罪としたため、検察官が上告した。
【最高裁の判断】
裁判所が認めた事実関係からは、被告人の引き出す現金が詐欺等の犯罪に基づいて送金されたものであることを十分に想起させるものであり、被告人は、詐欺に関与している可能性を認識していたと推認できる。
被告人は送金された現金を直ちに引き出しているが、この行為は、本件電子計算機使用詐欺による財産上不法の利益を直ちに現金として引き出して確保するという本件電子計算機使用詐欺の犯行の目的を達成する上で極めて重要な役割を果たしているといえる。
よって、被告人の行為は送金行為と密接不可分に結び付いた犯罪計画の一環であり、詐欺の実現に不可欠な機能を果たしていたとして、電子計算機使用詐欺罪について指示役らとの共謀共同正犯が成立すると判断した。
【コメント】
本判決は、被告人が被害者への欺罔行為や送金行為に直接関与していない場合でも、犯罪全体において詐欺行為の実現に重要な役割を担っていることや、被告人が引き出した現金が特殊詐欺などの犯罪によって得られたものである可能性を認識しているという点から、指示役らとの共同正犯を認めています。特殊詐欺は役割分担によって遂行される組織的犯罪であり、「出し子」であっても犯罪収益の確保という不可欠な役割を担う以上、共同正犯を認めることには合理性があるといえるのではないでしょうか。
司法書士日記 ―サッカーワールドカップに寄せて―
昨年司法書士試験に合格し、本年4月より入社しました永井政太と申します。これからどうぞよろしくお願い致します。
さて、今年開催されたサッカーワールドカップでは、テレビ越しに流れる選手の熱いプレーに、ついつい夜更かしをしてしまいました。
特に私は自分の小学生の頃から活躍を続けるメッシのプレーに目が離せませんでした。あの小柄な体格からは想像もつかないような魔法のようなボールタッチや、周囲を驚かせるパスを見ていると、「これぞプロの技!」と胸が熱くなります。
試合を観ながらふと思ったのですが、どんなに才能ある選手も、厳しいルールという土台があってこそ、その情熱が輝きを放つのですよね。
私たち司法書士の仕事も同じです。どんなに難しい案件であっても、法律という規律の中で、より良い解決への道筋を追求する。まさに、フェアプレーの精神こそが私たちの専門性の原点だと感じています。
メッシが見せるような鮮やかな解決とはいかないまでも、皆様の日常に寄り添い、丁寧な手続きを積み重ねていく所存です。
皆様の日常にも、熱い応援と共に心穏やかな時間が流れますように。
この夏、何かお困りごとがあれば、いつでもお近くの事務所までお気軽にご相談ください。
(健軍事務所 司法書士 永井政太)
~寄り添う支援で笑顔ふたたび~
当法人は、「NPO法人身近な犯罪被害者を支援する会」との連携を図っています。
ご質問、ご相談等ございましたら、当法人もしくは下記までご連絡ください。
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命の絆・大切に、輝く命・永遠に
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