
龍田事務所 伊藤 峰治
2026年6月20日
自筆証書遺言書保管制度 / 判例紹介:コンテナ倉庫は「建造物」にあたるか / コラム
法エールVol.209 2026.6.20.
ご挨拶
5月は、社会の大きな変化を改めて感じさせる一か月となりました。物価上昇が続く中でも、企業では賃上げや人材確保への動きが加速し、「人をどう守り、育てていくか」が社会全体の課題となっています。一方で、生成AIの急速な普及により、業務効率化や利便性が進む反面、誤情報、著作権侵害、個人情報漏えいなど、新たな法的課題も浮かび上がっています。欧州ではAI規制法への対応が本格化し、日本でもAI利用のルール整備やガイドライン議論が進められています。
また、近年頻発する豪雨や地震への備えとして、防災体制の強化も大きなテーマとなっています。災害時には、住まい、財産、事業承継、相続など、法律問題が一気に表面化します。政府でも防災庁創設に向けた動きが進められており、平時からの備えの重要性が改めて認識されています。
法律の世界でも、4月から始まった「不動産の住所・氏名変更登記の義務化」は、多くの方に影響する制度改正です。相続登記義務化と同様に、知らなかったでは済まされない時代になりつつあります。人口減少や所有者不明土地問題への対応として、法律は社会の現実に合わせて少しずつ変化しています。
私たち司法書士も、これまで以上に身近な法律専門家としての役割を果たしていく必要があります。変化の大きな時代だからこそ、制度改正や社会情勢を正しく理解し、不安を抱える方々に寄り添いながら、支援を続けていくことが求められていると感じています。
6月は梅雨入りの季節です。体調管理とともに、身の回りの契約書、相続、登記、財産管理などについても、ぜひ一度見直してみてください。小さな確認が、将来の大きな安心につながります。
それでは、今月の法エールもよろしくお願い致します。
(代表社員 井上 勉)
自筆証書遺言書保管制度
遺言は、自分の死後、自分の財産を誰にどのように引き継いでもらうかという最終的な意思を遺すために大切な手段です。相続人間のトラブル防止や相続手続の円滑化にもつながるため、近年その重要性がますます高まっています。
遺言書の主な作成方法として、自分で作成する「自筆証書遺言」と、公証人が作成する「公正証書遺言」があります。自筆証書遺言は手軽に作成できる一方で、紛失や形式不備のリスクがあります。そこで令和2年7月から始まったのが、法務局で遺言書を保管する「自筆証書遺言書保管制度」です。
【制度利用の流れ】
① 自筆証書遺言を作成する
② 保管を申請する法務局(遺言書保管所)を決め、保管申請書を作成する
③ 法務局へ予約をする
④ 法務局へ出向いて申請する
⑤ 保管証を受け取る
申請時には遺言書、申請書、住民票の写し、顔写真付きの本人確認書類などが必要です。また、手数料は遺言書1通につき3,900円です。
【メリット】
遺言書は法務局で厳重に保管されます。遺言書の原本だけでなく画像データも保管されるため、紛失や盗難、相続人による破棄・隠匿・改ざんのリスクを抑えることができます。また、形式面のチェックを受けられるため、形式不備による無効のリスクを減らすことができます。
さらに、通常の自筆証書遺言では、相続開始後に家庭裁判所で「検認」の手続が必要です。しかし、保管制度を利用した遺言書については検認が不要となり、相続人の負担も減り、相続手続をスムーズに進めることができます。
【注意点】
申請は本人しか行うことができず、代理人による手続は認められていません。また、法務局が確認するのは形式面のみです。そのため、遺言の内容が法律上有効かどうかや、遺留分への配慮が十分かどうかまではチェックされません。そのため、内容によっては将来相続人間で争いになる可能性があります。
申請については、遺言書の用紙サイズや余白などについて一定のルールがあります。また、事前予約のうえ、遺言書や申請書を準備して法務局へ持参する必要があります。ただし、必要な様式や申請書は法務局のホームページで公開されているため、手続の準備自体はそれほど難しくありません。
自筆証書遺言書保管制度は、自筆証書遺言の紛失や改ざんのリスクを軽減し、より安心して遺言書を残すための制度といえます。一方で、法務局は遺言内容のアドバイスや有効性の判断までは行いません。そのため、遺言書の内容に不安がある場合や、相続人間のトラブルが予想される場合には、司法書士や弁護士などの専門家に相談したうえで作成することをおすすめします。
判例紹介
コンテナ倉庫は「建造物」にあたるか
(最高裁第三小法廷令和7年10月21日決定)
【事案の概要】
被告人は、タイヤ等を預かり保管するサービスのために利用されていたコンテナ倉庫に侵入し、ホイール付きタイヤを窃取したとして建造物侵入罪及び窃盗罪等で起訴された。本件では、侵入先のコンテナ倉庫が刑法130条にいう「建造物」に該当するかが争点となった。
刑法
(住居侵入等)
第130条 正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の拘禁刑又は十万円以下の罰金に処する。
原審は、本件コンテナについて、①鉄製コンテナであること、②約3年10か月以上同一場所に設置されていたこと、③電柱から電気を引き込み倉庫として継続利用されていたこと、④タイヤ等の保管施設として機能していたことを認定した。そのうえで、社会通念上土地に定着した建造物と評価できるとして、建造物侵入罪の成立を認めた。被告人はこれを不服として上告した。
【裁判所の判断】
上告棄却。
最高裁は、コンテナが長期間移動されていないこと、電気設備が引き込まれ継続的に利用されていること、その形態及び使用実態から社会通念上土地に定着していると評価できることを重視した。
そして、本件コンテナ倉庫は移動が容易でなく継続的な利用を前提としており、建造物に該当すると判断した。
【コメント】
刑法130条の「建造物」は、住居用以外の建物一般を指すとされています。本判決は、建物の基礎工事の有無といった形式面だけではなく、設置期間や利用実態などを総合的に考慮して建造物性を判断することを明確にしたものです。
コンテナ倉庫、ユニットハウスその他可動性を有する施設は、基礎工事がされていなくても、長期間設置され継続的に利用されている場合には建造物と評価され得ることになります。
ただし、民法上、建物は、土地の定着物とされており(民法86条)、また、不動産登記法上、建物を登記するためには、「土地に定着した一個の建造物」である必要があります。したがって、建物の登記(表題登記)を行うためには、基礎工事がなされている建物である必要があります。
コラム
―3か月でマスター2!―
4月からNHKで「3か月でマスターする 西洋美術」が放送されています。この番組では、一つのテーマを3か月かけてじっくり学ぶことができます。実は昨年、このコラムで「絵を描く」を紹介しましたが、今回は西洋美術の歴史がテーマです。
番組では、古代の《ギリシャ・ローマ美術》から始まり、サモトラケのニケやミロのヴィーナスをはじめ、《ルネサンス》のボッティチェリ、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエッロ、《バロック・ロココ》のカラヴァッジョ、ルーベンス、レンブラント、フェルメール、更に《印象派》のマネやモネなど、各時代を代表する芸術家たちが、その作品とともに紹介されています。
解説は美術史家の田中久美子先生と、お笑いコンビ・ナイツの土屋伸之さんが担当されています。美術に詳しくない方でも、一度はどこかで目にしたことのある作品に出会えるのではないでしょうか。
また、番組に合わせてテキストも販売されています。私も6月号を買おうと近くの本屋へ行ったのですが、すでに売り切れていました。なかなかの人気ぶりです。放送は6月いっぱい続きます。興味のある方は、ぜひご覧になってみてください。
(龍田事務所 伊藤 峰治)
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