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法エールVol.208

清水事務所 福島 直也

2026年5月20日

仮登記とは / 裁判例紹介:被害者を利用した殺人 / コラム


法エールVol.208 2026.5.20.



ご挨拶


イラン戦争が長期化するなか、戦争終結に向けての動きも出ております。

しかし、原油やその他の輸入品が入手できない状況もでてきており、少しずつ、その影響が目に見える形で出てきているように感じます。

年始には、今年の物価上昇は少しずつ落ち着いてくるのではないかと予測されておりましたが、イラン戦争の影響で、さらなる物価上昇がみられるようになりました。

個人消費の冷え込みが気になるところです。また、企業におきましては、人件費や原材料費の上昇への対応が求められるようになり、厳しい経営が続いていくことになると思います。

また、4月からは、育児・介護休業法の改正に伴う対応など、働き方に関する制度整備も進められており、職場環境の見直しを行われた企業も多かったのではないでしょうか。

少子高齢化や人出不足が進む中で、安心して働ける環境づくりは、企業の持続的な成長にも直結する時代になってきています。

このように外部環境の変化が著しい中、当法人におきましては、法的な情報の提供をとおして、皆様方に少しでも安心していただけるよう、努力して参ります。

何かご不安に思うことがありましたら、お気軽にご相談いただければと思います。

それでは、今月の法エールもよろしくお願い致します。


(代表社員 井上 勉)




仮登記とは


今月は仮登記の種類について説明します。

仮登記には、大きく分けて「1号仮登記」と「2号仮登記」の2種類があり、それぞれ性質や利用場面が異なります。


この「1号」と「2号」とは、不動産登記法第105条第1号と第2号に仮登記をすることができる場合として規定されていることに由来します。




【1号仮登記】


すでに権利変動の実体は生じているものの、登記に必要な書類が不足している場合などに行われる仮登記。


(例)不動産売買において代金の支払いも完了し、所有権移転の合意も成立しているが、登記識別情報など所有権移転登記に必要な書類が揃っていない場合。

→実体上はすでに所有権が移転していることが前提となります。


【2号仮登記】


将来権利が発生することを前提として、その請求権を保全するために行う仮登記。


(例)農地の売買において、農地法上の許可が出ていない場合

→仮登記の段階では、まだ所有権は移転しておらず、将来の所有権移転請求権を保全するにとどまります。


両者の最も大きな違いは、「権利変動がすでに発生しているかどうか」にあります。


1号仮登記の場合には所有権移転登記(本登記)に必要な書類を揃え、本登記を行うこととなります。

これに対し、2号仮登記の本登記の際には、本登記に必要な書類が揃っていることに加え、許可等の条件が成就していることが必要となります。

このように、同じ「仮登記」であっても、その性質や利用場面には大きな違いがあります。

そのため、場面に応じた適切な理解と利用が必要となりますが、どちらも不動産取引の安全を守るための重要な制度です。

状況に応じて適切に活用することで、将来のトラブル防止につながります。



判例紹介


被害者を利用した殺人

(最高裁判所平成16年1月20日第三小法廷決定)




【事案の概要】


被告人は、いわゆるホストクラブのホストであり、客であった被害者がたまった遊興費を支払えなかったので、被害者に対し、激しい暴行・脅迫を加えて強い恐怖心を抱かせ、

風俗店などで働かせて、分割でこれを支払わせるようにしたが、被害者に生命保険を掛けたうえで自殺させて保険金を取得しようと考え、被害者を多額の生命保険に加入させたうえで、

被害者と偽装結婚して保険金の受取人を自己に変更させるなどした。


その後、被告人は当初の計画を変更し、被害者に自殺を強いる一方、その死亡が自殺ではなく自動車の海中転落事故に起因するものであるかのように見せかけて、災害死亡による保険金を取得しようと企てた。


そこで被告人は、自己の言いなりになっていた被害者に対し、犯行日の2日前から暴行・脅迫を交えて事故死に見せかけて自殺するように執ように迫った。

しかし、自殺する気のない被害者は、被告人を殺害して死を免れることも考えたが、結局、車ごと海に飛び込んでそこから脱出するという可能性にかけ、死亡を装って被告人から身を隠そうと考えるに至った。

犯行の深夜、被告人は、被害者を車に乗せて本件漁港に行き、被害者にドアをロックし、窓を閉め、シートベルトをすることなどを指示したうえで、車ごと海に飛び込むように命じた上、

被害者の車から距離を置いて被害者の行動を監視した後、本件現場を離れた。



それから間もなく、被害者は、シートベルトをせず、運転席ドアの窓ガラスを開けるなどしたうえで車を運転し、本件漁港の岸壁上から海中に車もろとも転落したが、

車が水没する前に、運転席ドアの窓から脱出し、港内に停泊中の漁船に泳いでたどり着き、死を免れた。


なお、当時(1月上旬)の本件現場の海は、岸壁の上端から海面まで約1.9m、水深約3.7m、水温約11度という状況にあり、車ごと飛び込んだ際の衝撃で負傷するなどして、車からの脱出に失敗する危険性は高く、

脱出できたとしても、冷水に触れて心臓まひを起こしたり、運動機能の低下を来すなどして死亡する危険性は極めて高いものであった。


以上のような事実に対して、第1審および原審は殺人未遂罪の成立を認めた。


ただし、第1審は、被害者は、被告人に命じられた以外の選択肢をとりえない状態にあり、意思決定の自由を欠いていたとしたのに対して、原判決はこの基準を緩和し、

「意思決定の自由を完全に失っていなくても、行為者と被害者との関係、被害者の置かれた状況、その心身の状態等に照らし、被害者が他の行為を選択することが著しく困難であって、

自ら死に至る行為を選択することが無理もないといえる程度の暴行・脅迫等が加えられれば、殺人罪が成立する」とした。


これに対して弁護人は、車ごと海に飛び込んだのは被害者が自らの自由な意思に基づいてしたことであるから、そのように指示した被告人の行為は、殺人罪の実行行為とはいえない、として上告した。



【裁判所の判断】


上告棄却


「被告人は、事故を装い被害者を自殺させて多額の保険金を取得する目的で、自殺させる方法を考案し、それに使用する車等を準備した上、被告人を極度に畏怖して服従していた被害者に対し、

犯行前日に、漁港の現場で、暴行、脅迫を交えつつ、直ちに車ごと海中に転落して自殺することを執ように要求し、猶予を哀願する被害者に翌日に実行することを確約させるなどし、

本件犯行当時、被害者をして、被告人の命令に応じて車ごと海中に飛び込む以外の行為を選択することができない精神状態に陥らせていたものということができる。


被告人は、以上のような精神状態に陥っていた被害者に対して、……漁港の岸壁上から車ごと海中に転落するように命じ、被害者をして、自らを死亡させる現実的危険性の高い行為に及ばせたものであるから、

被害者に命令して車ごと海に転落させた被告人の行為は、殺人罪の実行行為に当たるというべきである。



【コメント】


東京都新宿区では、ホストの執拗な売掛金回収により、女性客が精神的、経済的に追い詰められ様々な弊害が生じていることに鑑み、ホスト売掛禁止条例を制定しています。


本件は、ホストが女性客に対し、自殺や保険金詐欺への加担を強要した刑事犯事例です。

上記事実の概要のとおり、被告人が直接殺害行為を行ったわけではなく、被害者自身に車ごと海中に転落させるという行為をさせています。

そこで、被告人が被害者の行為を利用した行為が、殺人罪の実行行為といえるのか、すなわち、殺人罪の所謂「間接正犯」が成立するのかが問題となりました。


「実行行為」とは、結果発生の現実的な危険性を生じさせる行為をいい、「間接正犯」とは、「直接正犯(自らの手で実行行為を行った者)」に対する概念で、他人(第三及び被害者)を利用して犯罪を実現する者です。

自ら実行行為を行っていない者を「正犯」として扱うには、他人を利用する行為が直接正犯と同様に、結果発生の現実的な危険を生じさせる場合でなければなりません。


言い換えれば、他人の行為を自己の犯罪実現のために「道具」として利用した場合であることが必要です。

本件のように被害者自身の行為が介入する場合に、その行為が被害者自身の意思に基づくときは、道具として利用されていないため間接正犯が成立しません。


では、被告人が、被害者に行為を強制した場合はどうでしょうか。


本決定は、「本件犯行当時、被害者をして、被告人の命令に応じて車ごと海中に飛び込む以外の行為を選択することができない精神状態に陥らせていたものということができる。」として、

被害者の意思決定の自由が奪われていない、意思が完全に制圧されていない場合でも、自らを死亡させる現実的危険性の高い行為に及ばせたものであるから、

殺人罪の実行行為に当たるとして、殺人未遂罪の成立を認めました。死の現実的危険性の高い行為以外を選択することができないような精神状態にまで追い詰めたことが根拠になっているようです。




コラム


―母の日―


なぜ母の日にカーネーションを贈るのでしょうか。


気になったので、調べてみました。

諸説あるようですが、1 9 0 5 年、アメリカの少女が、敬愛していた亡き母を追悼するため、亡き母が生前好きであった白いカーネーションを手向けたのが起源とのことです。

白いカーネーションは故人を思い起こさせるため、現在では、赤いカーネーションが贈られているとのことでした。

私も、母の日当日、近所のスーパーにあるお花屋さんに、開店時間である朝1 0時に行ってみましたが、既に大行列になっており、びっくりしました。

皆様も、母の日の由来に思いを馳せながら、大切なお母さんへの感謝の気持ちをもう一度感じてみてはいかがでしょうか。


(清水事務所 福島 直也)





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