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法エールVol.179

行政書士法人ヒューマン・サポート行政書士 藤田賢司

2023年12月20日

利益相反③(事例及び手続き)


法エールVol.179 2023_12_20




ご挨拶


先日、某資格試験の予備校主催で、資格試験合格祝賀会が開催され、その来賓として参加させていただきました。祝賀会には、司法書士、行政書士、社会保険労務士、キャリアコンサルタントの試験合格者の方が参加されました。私は、主に司法書士試験合格者の方とお話をしましたが、大学のときから勉強して合格した20代の方もいれば、会社勤務を経て合格された50代の方もおり、いろいろなお話を聞くことができました。

私が司法書士試験に合格したのは20代前半なのですが、その時にお世話になったのも同予備校でした。その時の合格祝賀会には、合格者として参加させていただき、右も左もわからない中で、今後のことを相談していたことを思い出しました。

その当時と比べて、最近は20代の司法書士試験合格者が少なくなり、合格者の高齢化が進んでいると感じます。少し調べてみると、私が合格した平成14年は、受験者が25,416名、合格者が701名、平均年齢31.56歳に対し、令和5年は、受験者が13,372名、合格者695名、平均年齢41.14歳でした。比較すると、受験者は、平成14年に比べ、令和5年は半減近くになっているのですが、合格者は同じくらいです。そして、平均年齢は10歳くらい上がっています。合格しやすくなり、社会人経験者の方の合格が増えているのがわかります。

同予備校の職員の方とお話していると、司法書士受験講座の受講生も若い人が少なくなっているということで、司法書士試験よりも公務員試験を受験する方が多いということでした。

司法書士業界も高齢化が進んでおり、合格者まで高齢化してしまうと、高齢化を止めるすべはなくなります。若者に司法書士に興味を持ってもらい、司法書士試験に取り組んでもらえるように、当法人でも若者に情報提供等行っていきたいと思います。


(代表社員 井上勉)




利益相反③(事例及び手続き)


これまで10月号、11月号では親子間や会社と取締役についての利益相反行為についての説明しました。今月号では利益相反行為の事例や手続きについて説明します。

まず、親子間の利益相反行為で一般的なものは、未成年の子を残して父または母が亡くなった場合です。例えば、父が亡くなり、相続人として妻とその未成年の子がいるとします。残された妻と子は、亡父の遺産についての遺産分割協議を行うことになります。しかし、未成年者の子は単独で法律行為を行うことができず、親権者が子を代理して法律行為を行うことになります。今回の遺産分割協議においては、相続人としての妻と、未成年の子の代理人である母が同一人であることから、利益相反行為に該当し、遺産分割協議がなされたとしても有効とはなりません。

そこで、母は、遺産分割協議の手続きを進めるため、家庭裁判所へ未成年の子の特別代理人選任申立てを行うことになります。この特別代理人の候補者として、母の親族を挙げられる方が多いようです。特別代理人が選任されると、妻と特別代理人において遺産分割協議をし、成立した遺産分割協議の内容に基づき手続きを進めることになります。

なお、この遺産分割協議において、妻が全財産を相続するというような内容では、未成年の子が不利益を被ることになるため、そのような協議の内容につき、裁判所が認めない場合があります。これは、将来的には子に分配しようという考えが母である妻にあったとしても、客観的に見て子が相続できる財産がない場合にあたるからです。

また、特別代理人は子の数だけ必要となります。未成年の子が二人いれば、特別代理人も二人、三人いれば三人の特別代理人を選任する必要があり、一人の特別代理人が複数の未成年の子の特別代理人になれるわけではありません。

次に、会社における利益相反行為です。例えば、代表取締役個人が所有している土地・建物のうち、建物のみをその代表取締役が経営する会社に売却して、その後会社名義となった建物の敷地については、代表取締役と会社の賃貸借契約を結ぶという取引です。ここでは売買契約と賃貸借契約の二つの契約が利益相反行為に該当します。よって、この取引について株主総会(もしくは取締役会)の承認を得ることが必要となります。

その他にも、代表取締役個人の借入れについて、会社が担保を提供する場合も利益相反行為にあたります。代表取締役の借入れが、個人的な借入れなのか、会社のための借入なのか、代表取締役の意思は関係ありません。

なお、会社の承認がなく行われた利益相反取引において会社に損害が生じたときは、その取引を行った取締役や、取締役会においてその取引を承認することにつき賛成した取締役は、その任務を怠ったものと推定され、会社に対して賠償する義務を負うことになります。



裁判例紹介


美容医療における医師の説明義務

(大阪地裁平成27年7月8日判決)



【事実の概要】


医療センターを開設するYは、口腔内から採取した細胞を培養し、これを対象部位に注入することによって、皮膚のしわ、たるみ等を除去・改善する美容療法(以下、A療法)と、より高濃度の細胞を注入する美容療法(以下、B療法)を実施し、これらの療法をホームページに広告していた。

Yは、B療法を、「自分の細胞を使ってしわを取り除く究極のアンチエイジング」であり、「世界初、究極の美容・再生医療技術」であるA療法に改良を加えた美容療法として紹介していたが、客観的効果が得られない場合があるとか、効果には個人差があることの注意事項は記載していなかった。

Xは、Yのホームページを見て初めて本件医療センターを訪れ、同医療センターの院長であるC医師のカウンセリングを受けた。Xはこのカウンセリングにおいて、客観的に効果が得られない場合があることなどの説明は何ら受けなかったどころか、B療法はA療法よりも個人差が生じることなく高い効果が得られる等と説明されて、B療法の施術を受けることにした。

Xは2012年3月から翌年4月の間に、3回にわたり、培養した自己の細胞を眉間や下眼瞼部に注入する施術(本件施術)を受けた。Xが3回目の施術を受ける際に、C医師に治療効果が感じられない旨を訴えたところ、C医師は6カ月ほど待てば効果が現れるなどと述べた。しかし、約6カ月が経過した10月中旬になっても、Xは本件施術の効果を感じることができず、家族からはむしろしわが深くなった箇所もあるなどと言われた。

そこで、XはYに対して、以下のように主張し、債務不履行または不法行為に基づいて損害賠償(治療費等約356万円)を請求した。


①医師は、患者の体質、患部の状態等について十分に事前検査を行い、専門的知見に基づき、当該手術の時期、方法等を十分に検討して、実施するべき義務がある。Yは本件施術ごとの反応を十分チェックすることなく、逆に細胞の注入量を増やして合計4回もの施術を実施した。さらに、Xには何の効果もなく、逆に外出できないほどの副作用が生じたことを把握し、施術を取りやめるか、効果がない可能性をXに告知すべきであったのにこの義務に違反した(事前の適用検査義務違反)。


②医師は、患者に対して、事前に効果だけではなく副作用発現可能性などについて説明する義務がある。特に美容医療は、一定の美容効果自体を目的としてされるものであるから、患者に対して効果の有無やその可能性について、正確な情報を告知しなければならない。Yは、この義務に反し、「効果がある、科学的根拠がある、痛みがない、副作用がない」という説明しかしなかった(説明義務違反)。



【裁判所の判断】


美容診療は、生命身体の健康を維持ないし回復させるために実施されるものではなく、医学的にみて必要性および緊急性に乏しいものでもある。その一方で、美容という目的が明確で、しかも、ほとんどの場合が自由診療で決して安価とはいえない費用をもって行われるものであることを考えると、当該美容診療による客観的な効果の大小、確実性の程度等の情報は、美容診療を受けようとする者にとっては、その美容診療を受けるか否かの意思決定をするに当たって特に重要と考えられる。

そして、美容診療を受けることを決定した者からすれば、医師から特段の説明のない限り、主観的な満足度はともかく、客観的には当該美容診療に基づく効果が得られるものと考えているのが通常というべきである。そうすると、仮に、当該美容診療を実施したとしても、その効果が客観的に現れることが必ずしも確実ではなく、場合によっては客観的な効果が得られないこともあるというのであれば、医師は、当該美容診療を実施するに当たり、その旨の情報を正しく提供して適切な説明をすることが診療契約に付随する法的義務として要求されているというべきである。したがって、医師が、上記のような説明をすることなく、美容診療を実施することは、診療対象者の期待および合理的意思に反する診療行為に該当するものとして、説明義務違反に基づく不法行為ないし債務不履行責任を免れない。


【コメント】


医療行為を行うに当たり、医師は患者に対して説明義務を負い、適切な説明をしない場合には損害賠償が認められます。美容医療は、通常の医療とは異なり病気や疾病の治療ではなく、医学的な必要性および緊急性に乏しく、また、美容という目的が明確で自由診療に基づく安価でない費用で行われるため、美容医療を受けるか否かの意思決定をするに当たって、客観的効果の大小や確実性の程度等の情報は、特に重要であり、医師にはより厳格な説明義務が求められます。本判決もこのような立場に立ったものです。裁判所は、Xが求めた損害賠償約356万円のうち、約203万円(施術費用相当額約134万円、基礎化粧品代約9万円、慰謝料30万円、弁護士費用30万円)の損害賠償を容認しました。

なお、本判決は、Xの主張する事前の適用検査義務については、Xが具体的にどのような検査を実施すべきかを主張しなかったことから、実施すべき検査が不明であるとしてその義務違反についての判断はなされませんでした。



コラム

― 雑読雑感―


彩図社から出版されている『太平洋戦争通説のウソ』という本があります。日本近代史、現代史

に関する知識が乏しいと常日頃から感じていたのが読んだきっかけです。

この本は、終戦から年月を経たことで、新研究結果や戦死者が保存していた記録が相次いで

公表されたり、文書の機密指定が解除されたりして、これらの新たな成果を踏まえて、太平洋戦

争の新しい常識を紹介するという主旨で編集されとのことです。

この書籍の記載にあった新しい常識を二つ紹介したいと思います。

一つ目は、「国民は戦争中に娯楽のない生活を送っていた」ことに関するものです。

「欲しがりません勝つまでは」の標語が示すように、娯楽が国家から厳しい制約を受けていたの

は事実であるが、① 映画は上映され続け、映画館には多くに人が足を運んだ② 興行が許されて

いた相撲は賑わいを見せていた③ 戦勝祈願のためなどと称する旅行や遊山に出かける市民も少

なくなかったというものです。統制された苦しい生活の中でも、人々は何とかして楽しみを見出し

ていたそうです。

二つ目は、「太平洋戦争は8 月1 5 日に終わった」ことに関するものです。

昭和天皇による「堪え難きを堪え、忍び難きを忍び・・」のラジオによる玉音放送がなされた日(昭

和2 0 年8 月1 5 日)を日本では戦争終結の日としている。しかし、この日を終結日としているのは、

日本、イギリス、南北朝鮮のみで、戦勝国のアメリカ、フランス、旧ソ連では、9 月2 日を終戦日とし

ている。これは、この日は、アメリカ戦艦「ミズーリ」上で、連合国と日本との間で降伏調印式が実

施されたためというものです。日本は降伏を表明した日を重要視したのに対し、アメリカなどは、

正式に終戦が決まった日を重視したとのことです。

たまたま店頭で目についた本を気の向くままに読み、何かを感じ取るというのも、また一興です。

ただ、こんなことを書くと、自分が主体となって、自分の心が書物の方を照らすような読み方をしな

さい! と叱られそうです。


行政書士法人ヒューマン・サポート行政書士 藤田賢司

(司法書士法人ヒューマン・サポート法律支援センター連携行政書士)





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